私説・狗子仏性(くし ぶっしょう)

2019年9月4日古則公案・SS

 

これは遙か昔の事、とある2人の僧侶の日常の風景である。

 

僧A「あ、子犬だ。かわいいな。こっちおいで。」

僧B「・・・かわいい。」

 

僧A「ホント、無心にじゃれついてくるなぁ~。うっわ、口ん中ナメんな。」

僧B「・・・その無垢さがたまらない。」

 

僧A「そういや、あらゆる存在は仏の性質を有しているって話でしたね。」

僧B「・・・悉有仏性。」

 

僧A「そうなると、やっぱこの子犬も仏になれるんですかね?」

僧B「・・・うん。」

 

僧A「よかったな、おまえも仏になれるんだってさ!」

僧B「・・・そのかわいさは既に究竟頂。」

 

僧A「いや、かわいさの話じゃなくて。」

僧B「・・・かわいいは尊い。」

 

僧A「そうじゃなくて、子犬にも仏性が有るか無いかって話ですよ。」

僧B「・・・無い。」

 

僧A「ついさっき、悉有仏性とか言ってましたよね?!」

僧B「・・・そんな昔の事は忘れた。」

 

僧A「ニワトリかアンタ!?」

僧B「・・・ニワトリも結構かわいい。」

 

僧A「ニワトリは鳴き声がけたたましいから、あんま好きじゃないッス。」

僧B「・・・おまえの方がうるさい。」

 

僧A「毒舌ゥ!?」

僧B「・・・本当の事を言っただけ。」

 

僧A「このヤ・・・こんな時こそ深呼吸だ。すうはあ」

僧B「・・・落ち着け。」

 

僧A「アンタが言いますかね?!」

僧B「・・・私はいつも不動心。」

 

僧A「た、確かに不気味なまでに感情のブレが無い。」

僧B「・・・えへん。」

 

僧A「何か納得いかないけど、まあいいか。」

僧B「・・・本題に戻るべき。」

 

僧A「ぐ・・・そもそも、仏性って何なんですか?」

僧B「・・・ぶっしょう、と読む。」

 

僧A「読み方じゃ無くて、意味ですよ、意味。」

僧B「・・・仏の本性、という事になっている。」

 

僧A「何かひっかかる言い方ですね。」

僧B「・・・あんまり表現としては正確じゃ無いから。」

 

僧A「え?経典の言葉ですよ?」

僧B「・・・経典と言えども絶対では無い。」

 

僧A「僧侶がそんな事を言っちゃっていいんですか!?」

僧B「・・・表現の言葉は色々あっていい。」

 

僧A「そりゃあ、そうかも知れませんけど。」

僧B「・・・本質からズレなければ問題は無い。」

 

僧A「仏性という言葉の何処が、表現として正確では無いんですか?」

僧B「・・・本来、仏でないものなど無いから。」

 

僧A「え?あ、う~ん。」

僧B「・・・煩悩の所為で、そうは思えないだろうけど。」

 

僧A「つまり、修行をして煩悩を断てば、あらゆるものが仏に見えてくるって事ですか?」

僧B「・・・微妙に間違っているけど、大体OK。」

 

僧A「大体って、大雑把ッスねえ。」

僧B「・・・突き詰めたら泣くよ?」ジロリ

 

僧A「うっ・・・そ、それは、ご勘弁を。」

僧B「・・・許す。」

 

僧A「例えば、この子犬の仏の姿って、どんな感じに見えるんですか?」

僧B「・・・子犬は子犬。それが仏の姿。」

 

僧A「同じ言葉を繰り返す事を、トートロジーって言うんですよ?詭弁ですよ?」

僧B「・・・別に煙に巻こうとしている訳じゃない。」

 

僧A「子犬は子犬、あるがままで仏って事ですか?」

僧B「・・・上出来。」

 

僧A「でも、煩悩の所為で、そうは思えない、と。」

僧B「・・・煩悩とは、すなわち邪見だから。」

 

僧A「腹が減ってると、ニワトリが旨そうに見えてきますもんね。生でなんか喰えないのに。」

僧B「・・・この子犬を食べないで。」

 

僧A「そう見えるってだけの話ですよ。」

僧B「・・・。」

 

僧A「そこは何か言いましょうよ。」
僧B「・・・。」

 

僧A「・・・。」

僧B「・・・鬼畜。」

 

僧A「ひでぇ!?」

僧B「・・・うるさい。」

 

僧A「それはそうと、そろそろメシにしませんか?」

僧B「・・・切り替えだけは早いよね。」

 

僧A「自分、あんま悩むタイプじゃ無いんスよ。」

僧B「・・・転迷開悟って知らない?」

 

僧A「迷い無くして悟り無し、とかいう奴ですか?」

僧B「・・・相互の関係にあるからね。」

 

僧A「此あれば彼あり、因縁生起、縁起説ですか。」

僧B「・・・一応、知ってはいるんだね。」

 

僧A「辛辣ゥ!?」

僧B「・・・知識だけじゃん。頭デッカチ。」

 

僧A「ヒドイワ・・・(涙)」

僧B「・・・お釈迦様もやれやれって言ってるよ。」

 

僧A「しょぼん」

僧B「・・・少しは薬になればいい。」

 

僧A「それはそうと、早くメシにしましょうよ。」

僧B「・・・無駄にタフだね。」

 

僧A「いや、タフにならないと、ここじゃやっていけないッスから。」

僧B「・・・変な所だけ鍛えられてる!?」

 

僧A「はっはっは、珍しく動揺しましたね。」

僧B「・・・うるさい。」

 

僧A「子犬にもメシをやらないと。」

僧B「・・・そこは同意。」

 

僧A「仏性とは何か分からないけど、子犬を愛でるのは大事ですよ。」

僧B「・・・今はそれでいい。」

 

僧A「今は、分からなくて良いと?」

僧B「・・・いくら仏性が有るか無いかと考えても、答えは出ないから。」

 

僧A「え、でもさっき・・・。ひょっとして、ワザと話を逸らしてたとか?」

僧B「・・・あまり実のある話にはならないから。」

 

僧A「真面目に聞きますが、犬に仏性は有るんですか、無いんですか?」

僧B「・・・それは君の認識次第。」

 

僧A「真面目に聞いてるんスよ、煙に巻かないでくださいよ!」

僧B「・・・真面目に答えてる。こうなるのが分かっていたから、はぐらかしていたのに。」

 

僧A「つまり、どうしてもそういう答え方になるんですね?」

僧B「・・・有と無は因縁によって成り立つものだし、究極を言葉で表現しようとすると、言葉として成立しなくなるから。」

 

僧A「纏めると、子犬を仏にするもしないも、自分次第って事ですか。」

僧B「・・・あらゆるものに実体は無く、空だからね。」

 

僧A「分かるような、分からないような、難しい話だなぁ。」

僧B「・・・君にしては頑張ったよ。」

 

僧A「言い方ァ!?」

僧B「・・・ごはんにしよう、おなかすいた。わんこもおいで。」

 

今日も今日とて子犬は子犬であり、とてもかわいらしいのだった。

 

 

無門関

 

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2019年9月4日古則公案・SS

Posted by 清濁 思龍