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私説・倶胝竪指(ぐてい じゅし)

2024年4月1日古則公案・SS古則公案・SS

 

むかしむかし、中国のあるお寺に、有名な和尚さんと、お弟子の小僧さんが住んでおりました。和尚さんは誰に何を聞かれても、ただ指を一本立てるだけなのですが、その動作を見た途端、誰もがハッと何かに気づいたような顔をして、満足げに帰っていくのです。

小僧さんは、それが不思議でなりません。これまでに何度も何度も和尚さんの真似をして指を立ててみましたが、何故こんな動作だけで誰もが納得して帰っていくのかがサッパリ分かりませんでした。

ある日、小僧さんは来客から「和尚さんはどのような教えを説くのか?」と尋ねられました。聞かれたからには答えないといけないと思った小僧さんは、和尚さんの真似をして指を一本立ててみたのですが、来客は首をかしげるだけだったとか・・・。

 

 

和尚「ちょいと、小僧さんや。」

小僧「あ、はい。何でしょう。」

 

 

和尚「さっき来たお客さんの話なんだが、わしの真似をして指を立てたそうじゃな?」

小僧「ええ、どういう教えなのかと聞かれたので・・・。」

 

 

和尚「なるほど。で、どうだったかね?」

小僧「首をかしげておられました。やはり私では和尚さまの代わりは務まりません。」

 

 

和尚「ふむ。では、わしのやり方とどう違うのか、考えてみた事はあるかね?」

小僧「私は和尚さまの弟子ですから、それはもう数え切れないほど。」

 

 

和尚「でも、どう工夫しても、一指頭の禅が理解出来ないのじゃな?」

小僧「・・・はい。」

 

 

和尚「ふむ、かわいそうにな。そんなおぬしに、ちょいとばかり聞いてみたい事がある。」

小僧「あ、はい。何でしょう。」

 

 

和尚「おぬしは空(くう)とは何かと考えた事はあるかね?」

小僧「般若心経の是諸法空相の空ですか?」

 

 

和尚「こらこら、わしの弟子なら、指一本で答えてみんかい。」

小僧「あ、しまった。(指を立てる)」

 

 

その瞬間、和尚は懐から小剣を取り出して、小僧さんの指を斬り飛ばしてしまった。

周囲には血が飛び散り、小僧さんは驚きと痛みで悲鳴を上げて、その場にうずくまった。

 

 

和尚「そら! 今こそ指を立ててみよ!」

小僧「お、和尚さまァ! 無い指を立てられる訳がありません!!」

 

 

和尚「そう、それこそが一指頭の禅じゃよ。(指を立てる)」

小僧「ハッ!!」

 

 

和尚「人は誰しも、元々無いものを有るかのように思い込んでおる。だから問題が起こるのだ。本質的には、問題など無いのにな。」

小僧「そ、それが空であり、それを気付かせるのが一指頭の禅・・・うぐぐ。」

 

 

和尚「痛むか? すぐに治療しよう。」

小僧「あ、ありがとうございます。痛たたた・・・!!」

 

 

和尚「おぬしは指を一本失ったが、その代わり、無い指で真理を指し示す事が出来るようになった。」

小僧「真理の対価と思えば、この程度・・・ッ!」

 

 

和尚「わしを恨むか?」

小僧「か、感謝しかありませんッ!!」

 

 

和尚「おぬしは真面目だが、それ故に踏み込むべき所で踏み留まる傾向があった。今回は手荒な真似をしたが、それはこの機を逃したらいかんと思ったからだ。」

小僧「ま、まことに面倒をおかけしました・・・ぐぅぅッ!」

 

 

和尚「一指頭の禅は、あらゆる真理を指し示す事が出来る。わしも師匠からこの禅を授かった身だが、一向に真理を指し尽くせる気がしない。」

小僧「な、無い指は、初めから立てようがありませんからね・・・。確かに、指し尽くせる訳が無い。フフ、やっと分かりました。」

 

 

和尚「うむ、確かに伝授したぞ。」

小僧「は、はい。確かに伝授していただきました。あ痛たたた!」

 

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2024年4月1日古則公案・SS古則公案・SS

Posted by 清濁 思龍