一汁一菜で問題なし!
少し前まで「一日30品目を食べよう」と言う運動がありました。これは1985年に厚生労働省が言い始めたものですが、2000年頃には生活指針から外されています。これを真に受けて、毎食献立で苦しむ人が続出したという笑えない話があります。
でも、食事の度に必須栄養素を全種体内に流し込まなくても、そう簡単には病気になりません。逆に病気になる時は、何を食べていてもなるものです。因みに、管理人は中国家庭の「週単位で必須栄養素を摂る」という考え方が好きで、長年それを実践していますが、健康には何ら問題ありません。
先に紹介した修行者達の食生活から学ぶ事はあっても、そのまま真似をするのは難しいものがあります。しかし、少し前まで日本人の食事は一汁一菜が基本だった訳ですし、栄養バランスさえしっかり考えればシンプルな食事を楽しむ事も出来る筈です。
炊き立ての御飯と、具沢山の味噌汁、そして漬物の組み合わせは、日本人なら食べ飽きるという事がありません。少々地味な組み合わせなのは否めませんが、食材の持ち味を活かしたり、四季の変化を取り入れて旬を楽しむには、シンプルな食事スタイルの方が良いのです。
御飯
炊くお米は、研ぐ必要の無い無洗米がお勧めです。米の研ぎ汁には栄養分が大量に溶け出しているので、排水溝に流してしまうと分解し切れず、環境破壊に繋がります。無洗米ならその心配はありませんし、お米の栄養素をしっかり吸収する事も出来ます。
白米だけだと、糖質をエネルギーに変える働きを持つビタミンB1が不足するかも知れないので、押麦を混ぜて麦飯にしましょう。玄米の方が栄養的には優れていますし、水に浸けて発芽させた「発芽玄米」のパワーには目を見張るものがありますが、正直、美味しくはありません。
麦飯はマズいとか、臭いと思っている人が居るかも知れませんが、それは昔の話です。現代の押麦は殆ど臭いがしませんし、歯触りや舌触りも決して悪くはありません。小分けされていない大袋のものなら値段も米と大して変わらないので、可能ならば胚芽押麦の購入をお勧めします。
御飯を炊く時に、米と具材を一緒に炊き込めば「炊き込み御飯」になりますし、炊いた御飯に具材を混ぜ込めば「混ぜ御飯」になります。大根や人参などの葉っぱを塩もみしたり、湯通ししてから刻んで混ぜれば「菜飯(なめし)」になります。
豆を入れて御飯を炊けば「豆御飯(まめごはん)」になりますし、粟(あわ)や紫米(むらさきまい)などの雑穀を入れて炊けば雑穀御飯(ざっこくごはん)になります。米よりも安価な野菜や穀物の量を増やして炊けば「かて飯(めし)」になります。
また、水の量を増やして炊けば粥(かゆ)になりますし、冷めたご飯を汁で炊けば雑炊(ぞうすい)になります。御飯は我々日本人の主食であり、命の糧であり、豊かさの象徴であり、魂そのものです。だからこそ、米料理や料理法にこれだけ沢山の名がつけられているのです。
味噌
味噌は豆味噌がお勧めです。豆味噌は八丁味噌とも言いますが、これは愛知県岡崎市八帖町(旧八丁村)で生産された豆味噌だけに許されたブランド的な呼び名です。現在は「カクキュー」と「まるや」の二社だけが八丁味噌を生産していて、他の製品は豆味噌と呼称する事になっています。
豆味噌は水分が少なく腐敗しにくいのが特徴です。また、他の味噌は煮込むと風味が飛んでしまいますが、豆味噌は煮込むほどに味やコクが増していきます。天下人の徳川家康は八丁味噌が大好物で、わざわざ江戸まで取り寄せていたという記録が残っています。
豆味噌には「アルギニン」というアミノ酸が含まれていて、成長ホルモン合成の促進や、免疫力の向上、疲労回復などの効果が期待できます。
また、豆味噌は風味が中華料理の甜面醤(テンメンジャン)と似ているので、代わりに使う事も出来ます。豆板醤(トウバンジャン)と豆味噌で回鍋肉(ホイコーロー)が出来ますし、仙台味噌と合わせて味噌汁や味噌炒めを作ると美味しくなります。
昔から「味噌は気骨に効く」と言いますし、朝に味噌汁だけでも飲んでおけば、午前中くらいは体力を保てるものです。味噌汁を作る余裕も無い時は、味噌を茶に溶いて味噌茶にしたり、味噌に削り節をかけて「かちゅー(かつお)湯」にするという手もあります。
また、味噌汁は昆布と鰹節と煮干しで出汁(だし)を取るものと相場が決まっていますが、水に煮干しを一晩漬けただけでも美味しい出汁を取る事が出来ますし、この出汁がまた豆味噌と良く合うのです。煮干しの頭とワタを取ると上品な味になるので、是非試してみてください。
味噌汁と言えば、ワカメと豆腐の味噌汁や、ネギと豆腐の味噌汁などの定番料理を連想するかも知れませんが、基本的には鍋物と同じで何を入れてもOKです。わかめと卵の中華風にしても美味しいですし、トマトとアスパラのイタリアン味噌汁も意外と美味しかったりします。
また、味噌汁に小麦粉を水で溶いた水団(すいとん)を入れたり、蕎麦粉を湯で練った蕎麦掻き(そばがき)を入れれば主食になります。冷めたご飯を入れて炊けば味噌雑炊になりますし、闇鍋よろしく余り物を適当に入れてみてるのも面白いです。
味噌汁は我々日本人を料理のストレスから解放し、時短の柱となってくれる重要な料理であり、栄養バランスに優れた健康的な食生活を約束してくれる有り難い料理です。
漬物
江戸時代の庶民も一汁一菜が基本でしたが、当時は御飯と味噌汁と漬物だけで、おかずが無いというスタイルが多かったようです。玄米のように精米度合いの低い米は美味しくないですが、その代わり極めて栄養価が高いので、このような食事でも体を維持する事が出来たのです。
因みに、昔の米は現代のものよりタンパク質が多かったので、御飯を沢山食べて運動をすれば筋肉ムキムキの肉体を造れたようです。しかし、タンパク質の多い米は美味しくないので、現代の米は品種改良によってタンパク質が低くなっており、肉や魚からタンパク質を摂取する必要があるそうです。
タンパク質はともかく、米と味噌だけではビタミンが足りません。そこで米糠を発酵させて野菜を漬ける「糠漬け(ぬかづけ)が考え出されました。糠漬けは発酵食品なので、乳酸菌の働きにより生野菜の状態よりも栄養価が高くなっています。
最近は「菌活(きんかつ)」と言って、善玉菌を積極的に食事から取り入れたり、腸内環境を整える事が勧められています。菌活は代謝力や免疫力を高めるので健康や美容に効果がある為、以前よりも納豆やヨーグルトの人気が高まっていますし、中には自宅で糠漬けを漬け始める人も居るのだとか。
因みに、管理人はホームセンターなどで販売している大型の民芸調の壺で糠漬けを作っているのですが、正直、これはあまりお勧め出来ません。夏場はちょっと油断しただけで糠床の表面をビッシリとカビが覆い尽してしまいますし、そうなる度に糠漬けの味が低下していきます。
糠床の腐敗を完全に防止する手段はありませんが、冷蔵庫に入れておくと発酵(腐敗)の速度を落とす事が出来るので、毎日かき混ぜなくても良くなります。大型の壺は糠に漬け易いのは確かですが、冷蔵庫に入れ難いという欠点があります。
最近は小型サイズの琺瑯(ホーロー)製の糠漬け器が人気ですが、それは冷蔵庫内での収まりが良いからです。特に野田琺瑯や、富士ホーロー製の、水取り器がついている製品が人気のようです。
一汁一菜については、料理研究家の土井善晴氏の著書「一汁一菜でよいという提案」が参考になります。氏は「食との向き合い方に悩む人にとって、わかりやすい入口になるように」と思って、この本を書いたそうです。
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