不動知
安土桃山時代から江戸時代初期にかけて、沢庵宗彭(たくあん そうほう)という臨済宗の名僧がいました。沢庵禅師は、無念無想、無心の境地を不動知(ふどう ち)と呼びました。
不動智とは、心を殺して石や木のような無機物的な存在になるのではなく、対戦相手などの外部からの刺激に動揺したり、内なる煩悩に囚われたりせず、自由自在に動く事であるそうです。
そして沢庵禅師曰く、不動明王とは囚われのない心の象徴なのだとか。
沢庵禅師は柳生新陰流の柳生但馬守宗矩(やぎゅう たじまのかみ むねのり)と交流があり、柳生宗矩に宛てて書いた不動智神妙録(ふどうち しんみょう ろく)という書簡には、禅の見地から剣の道が説かれています。
不動智神妙録の原本は現存せず写本が残るのみですが、今でも関連書籍や全集なら読む事が出来ます。昔の本ばかりなので少々読み辛いのが欠点ですが、国立国会図書館デジタルコレクションでもいくつか読める本があります。
後に柳生宗矩は剣禅一如(けん ぜん いちにょ)と言う思想を説くようになりますが、これには沢庵禅師からの影響があったと考えて良いでしょう。
木刀素振りの効能
剣術を本気で学ぶのは大変ですが、木刀の素振りくらいなら誰でも今すぐに始められます。素振りは全身の筋肉をバランス良く鍛えられますし、筋肉の破壊と再生によって成長ホルモンが分泌されるので、気分が爽快になります。
ウェイト・トレーニングとは違って、木刀の素振りでは筋肉ムキムキにはなりません。女性は筋肉がつく事を嫌がりますが、この程度の運動量なら体が細く引き締まるだけです。
男性の場合は素振りによって男性ホルモンのテストステロンが分泌されるので、男らしい性格が形成されます。また、シャドー・ボクシングのようなイメージを伴わせれば、有事の際にも自然と体が動くようになるので、護身術にもなります。
稽古に使う木刀は、観光地などで売っている赤樫の木刀で構いません。もっと軽い木刀が欲しい人は、ホームセンターなどで販売している直径2.5cmの丸棒を、長さ1mにカットしたものを使うと良いでしょう。
丹田操剣法
柳生新陰流のような古流剣術は、丹田(たんでん)の錬磨を重視します。これは高速で振り回す刀剣の重量と、対戦相手との体格差に負けないようにする為です。木刀の素振りで丹田錬磨をする場合は、剣道の素振りとは全く異なる動作をします。
まず全身を脱力して両手(小指だけ締める)で剣の柄を持ち、両足を外ハの字(がに股)に開きます。開く角度は90度、広さは肩幅より少し広めにして、体重は踵に落とします。次に、膝を自然に伸ばしたまま、剣先が背中か尾てい骨につくように、ゆっくり大きく振りかぶります。
振りかぶったら、脇を締めつつ腕を伸ばし、雑巾を絞るように手首を絞りながら剣を振ります。振り終わった時、両手首は絞られて一直線上にあり、高さは胸より少し低いくらいの位置で緊張した大胸筋につかえて止まります。腰は反らしたままです。
きちんと手首を絞っていれば、振り終わった木刀の柄を、両手の掌で抑える形になっている筈です。こうしないと剣のインパクトが上手く伝わらず、斬撃の威力が下がってしまいます。これは全力で振った木刀を、実際に何かに当ててみないと分からない感覚の一つです。
剣を振るという動作は、想像以上に腕の筋肉や関節にダメージを与えるものなので、始めたばかりの時は必ずゆっくりと動作を行ってください。ゆっくりやっても最初は20回も振れれば上等ですし、キチンと出来ていたら翌日は全身が筋肉痛になります。
逆に、普段運動をしていないのに筋肉痛にならなかった場合は、何処かしら上手く出来ていないと言う事です。
何日か行って、自分の筋力の強さを把握出来たら、少しづつ早く振るようにしていってください。重要なポイントは、体重を地面と垂直に落とす事と、そのショックを膝で吸収する事です。このようにして素振りを続けていくと、少しづつ丹田が鍛えられていきます。
小太刀での丹田操剣法
木刀の素振りで丹田に力が入る感覚が掴めてきたら、次に小太刀を振ってみましょう。まず右手で片手剣を持ち、左手の甲を背骨と腰骨の間にある「仙骨」に当てて自然に立ちます。次に右足を一歩踏み出して、左足を45°の角度に開いて体重をかけます。重心は踵です。
その姿勢を維持したまま、体の内側を回すように片手剣を振ります。この時は人差し指で輪を作るような気持ちで剣を持ちます。慣れてきたら、敵の攻撃を受け流すイメージを持ちながら行うようにしてください。
背筋を伸ばして左手の甲を仙骨に当てたまま片手剣を振り下ろすと、大体この位置で剣が止まって、右足に体重が乗ります。その際、踏み出した右足が地面に垂直になるようにすると、下腹に力が入ります。体重は踵です。
インパクトの瞬間は小指で軽く柄を握り、雑巾を絞るように手首を返して、手のひらで剣の勢いと重さを支えるようにします。上手く行くと剣がブレず、ピタリと止まります。正確には、振り回すと言うより、剣先で重い物を押すような感じです。
片手剣は重量が少ないので、振り回すだけでは斬撃の威力が出ません。その為、胸筋、腹筋、背筋をフルに使って、全身で押し切るように振る必要があります。熟練すると、丹田にズシリと力が入る感覚が生じます。
護身術としての丹田操剣法
片手剣の扱いに熟練したら、素振りの際に「相手の斬撃を受け流すイメージ」を伴わせます。内回しの場合は、敵の斬撃を受け流しながら体を左前に移動させて、相手の手首を狙って剣を振り下ろします。
外回しの時は、体を右前に移動させながら斬撃を受け流し、相手の手首を斬りつけます。その際、人差し指と親指で輪を作るように剣の柄を握らないと、受け流せる角度になりません。
片手剣に熟練したら、両手剣での受け流しを練習しましょう。両手剣は重量があるので、円運動にならないよう柄尻をかち上げるような感じで行います。
お勧め動画と書籍
剣術について学ぶなら、剣術研究家であり劇画作家の「とみ新蔵」先生が主催する実戦剣術会の動画がお勧めです。これは最も古い動画なので画質は悪いですが、内容は最高です。
丹田の感覚が掴めない時は、肥田式強健術を学んでみましょう。個人的には、ムー・ブックスの書籍が一番出来が良く、安価で、入手し易いと思ったので、お勧めします。下記動画の出演者は、肥田式強健術の創始者・肥田春充師です。